「高尾山の初日の出」 


 元旦の始発の快速電車に乗って、高尾山の初日の出を見に行った。

思ってたより多くの乗客で込み合った電車の中を、君を捜して車輌から車輌へと歩いた。

僕が先に君を見つけた時、君も僕を捜して歩いていたね。

僕を見つけて、それまでの心配そうな顔がホッとした表情に変わったのを楽しく思い出す。

ごく自然に二人両手を合わせたっけ。


 高尾山への初詣は東京育ちの君も初めてで、「いつか行けることを夢見てたの」と話してたことも懐かしい。


 高尾山では曇っていて、初日の出は見られなかったね。

でもご来光の時間には、銀色の厚い雲が、丁度お日様のいる所だけ白く明るく光ってた。

途中から手をつないで登った高尾山の頂上近くで募金したのを覚えてる。

「今日の記念よ」と君が言ったことも。


 帰りに君の家でおばあちゃんと三人、庭を見ながらお茶を飲んだね。

さよならする時、「今日は私が見送る番ね」と言って、僕が見えなくなるまで電信柱の並ぶ道の曲がり角に佇んでいた君。


 僕を見送った君のまなざしは、それからの僕の灯台の光。

 一緒になれなかったから、なおさらに。

 いつまでも僕の行く手を照らして。無事を祈って。